複素数の発見
代数学 II の「付録」として複素数の導入の話をすこしした.
実2次元のベクトルどうしの「積」を定めることからはじめ,
「虚数単位」が反時計回りの 90 度回転を与えるということまで.
積を与える式 (a,b)(a',b')=(aa'-bb',ab'+a'b) が唐突すぎて,
わけがわからないという学生の感想が有った.まったく正直で
もっともな感想である.(0,1)(0,1)=(-1,0) と計算してみせた
ところで「ほら i^2=-1 と同じでしょ」と運んだのだがどうだったか.
唐突に見えたものがイチオウ知っているものとつながる驚き,
という筋だったのだが.
数学の議論はほぼ均等な段差の階段で一歩ずつ登れる箇所と,
切り立った崖を一気に登る箇所がある.先人のアイデアとか発見は
後から道をたどる者にとっては,突然の急勾配に見えるのも
無理は無い.オイラーやガウスなど数学界のスーパースター
の華麗な技を「こうやればできるよ」というふうな講義に
仕立てるのが我々の仕事なわけなので,聴いている学生にとってみれば
「そんなの思いつかない,わたしには無理」と思うのは
当然のことかもしれないのである.自分の今持っている
力量を越えたアイデアなりテクニックは,賢い人もいたもんだ
と鑑賞しつつ学ぶのでしょう.どうしたら思いつくのかなと
考え続けることは大切だけど.
複素数の発見は数学史上最大級の出来事なのですよ.
そう簡単にすんなりと受け入れられないとしたらその
感覚はそれで大切にして,そこから広がる話に親しもうという
心意気でやってみてください.
2009.10.23